18.3.1 生体肝移植と合併症

   生体肝移植は患者(レシピエント)だけで行われるのではありません。必ず臓器提供者(ドナー)がいる事が前提です。
    日本語訳では生体肝移植となっていますが、英語では
Living Donor Liver Transplantation (LDLT)です。
    
"生きているドナーからの肝臓移植"と私は直訳しています。日本語訳ではドナーの名は出てきていません。
    私としては英語の方が実態にあっていると思います。

   生体肝移植には大きなリスクが伴います。この章を書くと怖がってドナーになる方が減るかもしれないと思い書くのをためらってきました。
    しかし、リスクの事を全く知らず、後で合併症が出て、せっかく固く結ばれた絆が断たれては大変です。

    お互いに移植の事、合併症の事を正しく理解して下さい。またレシピエントはドナーを大切に見守ってあげて下さい。
    
    私は当初、移植後は薔薇色の人生が待っていると思っていましたがそんなに甘くはありませんでした。


    
”移植は治療の終わりでなく、新たな病気治療の始まりです”

    私の生体肝移植手術後の合併症と治療等は次のとおりです。 退院後は大きな合併症はありませんでした。
    しかし、2年経過後からは、色々な合併症に悩まされています。幸いドナーには大きな合併症は出ておりません。
    (生体肝移植手術 2003/03/27)


    術後合併症と治療(糸田の場合)

病  名

発症年月

治 療 等

急性腎不全

2003/03

透析(完治)

肺水腫

2003/04

カテーテル挿入・撤去(完治)

創離開

2003/04

縫合糸融けによる創縫合閉鎖術施行(再手術)

胆汁漏

2003/05

カテーテル再挿入・撤去(完治)

左母指MP関節炎

2005/11

抗生物質(完治せず)

蜂窩織炎(ほうかしえん)

2005/11

細菌による化膿性炎症 抗生物質( 1年後完治)

帯状疱疹(ヘルペス)

2006/02

抗生物質(1ヶ月後完治)

インフルエンザ感染

2006/05

タミフル投与(異常行動なし)

牡蠣中毒

2006/12

抗生物質(1週間後完治)

胃潰瘍・胃炎

2007/06

薬物による副作用(治療中)

蛋白尿

2008/03

食事療法(蛋白・塩分制限継続中 原因不明)

血尿

2008/03

未治療(原因不明)

高血圧

2008/03

薬物治療(原因不明 治療中)

甲状腺機能低下

2010/04

薬物治療(原因不明 治療中)

悪性リンパ腫

2014/01

免疫抑制剤長期使用による副作用

    追記:2014年1月免疫抑制剤の長期使用により、左頸部耳下腺近傍および左鎖骨上に病変を認める。
        病名は非ホジキンリンパ腫 びまん性大細胞B細胞リンパ腫と診断
されました。詳しくは次章を参照願います。

既往症と治療(糸田の場合)

病  名

発症年月

治療等

糖尿病の継続治療

1997/12

移植後よりベイスンからインスリン注射に変更ヒューマログ3回(各10単位)/ 2008/12現在

C型慢性肝炎の再発

2003/04

リバビリン併用ペグインターフェロン注射
2007/02より開始
2008/12現在継続中(陰性化)

左第5腰神経根障害

2005/10

腰椎椎間板ヘルニアの摘出

腎臓結石の再発

2007/12

未治療(左右の腎臓に結石)

 2014年3月12日時点で服用している薬は次のとおりです。
    @    ネオーラル 10mgカプセル 16個 13個 12回 免疫反応を抑制する薬
    A    パリエット 錠10mg 1日1錠 朝 胃酸の分泌を抑制する薬
    B    サロベール 錠 100mg 1日0.5錠 夕 尿酸を作るのを抑える薬
     C    ニューロタン 錠50 50mg 1日1錠 夕 血圧を下げる薬
    D    アテレック 錠10 10mg 1日1錠 夕 血圧を下げる薬   

   注射は次のとおりです。
    @ 
インスリン注射 ヒューマログ 15単位 1日3回 食前 血糖値を下げる注射 
    A リバビリン併用ペグインターフェロン注射 PEG-IFN 50μg/週 ペグイントロン(50) 0.5ml皮下注 ウィルス排除のための注射(平成21年4月終了 同時にレベトールも中止となりました)

    その後、甲状腺ホルモンの低下等により薬が追加されました。
    E フルイトラン 錠 2mg 1日0.5錠 朝 むくみを取る薬
    F チラーヂンS 錠 25mg 1日1錠 朝 甲状腺機能の低下改善
    G メトグルコ 500mg 1日2個 朝、夕各1個 血糖値の改善
    H バラクルード 0.5mg 1日1錠 夕食2時間後 悪性リンパ腫治療に伴うB型肝炎ウィルス再熱防止

 
 2014年3月11日時点で服用している薬は@〜H、注射は@のインスリン注射です。
  免疫抑制剤等の副作用として腎臓機能が低下し、人工透析を開始された方もいます。十分注意されて下さい。

 合併症についての解説は各ホームページ等に記載されていますが、主なものの抜粋を載せてみました。
 (問題がありましたらご連絡願います)


 1.生体肝移植における合併症について

   
信州大学医学部移植外科ホームページより抜粋 

生体肝移植ドナーの術後に起こりうる合併症

a)上腹部の開腹手術による一般的な合併症:

@

無気肺・肺炎:上腹部の手術で頻度が高い合併症は無気肺や肺炎です。

A

出血:手術中の剥離面あるいは肝切離面から術後に出血することがあります

B

腹膜炎、腹腔内膿瘍:開腹中の落下細菌や胆嚢内の胆汁中の細菌あるいはドレーンからの逆行性の感染により腹膜炎を起こすことがあります

C

ストレス潰瘍:精神的・肉体的ストレスにより胃十二指腸潰瘍を発症することがあります。

D

末梢神経麻痺:手術中の体位や圧迫により上肢あるいは下肢に末梢神経損傷を来すことがあります。

E

嗄声(半回神経麻痺/かすれ声):全身麻酔の際の挿管により声帯を動かす反回神経の麻痺が起こることがあります。

F

創感染:おなかの創に細菌感染が生じることがあります。また、感染が無くても皮下脂肪が融解する事があります。

G

腹壁瘢痕ヘルニア:閉腹した腹壁の筋肉の部分が開いてしまうことがあり、その結果脱腸になることがあります。

H

肺塞栓症(エコノミークラス症候群):手術および術後の長時間の臥床に伴い下肢の静脈に血栓ができ、それが血管の中を進み肺の太い血管につまり、肺塞栓症を発症することがあります。

I

腸閉塞:手術操作に伴い、お腹の中に癒着がおこり、このために腸閉塞が生じることがあります。

b)肝切除手術に伴う合併症:

@

肝機能障害:肝切除に伴い肝臓の逸脱酵素(GOT, GPT)は上昇しますが、予定されている範囲の肝切除では術後に肝不全のような肝機能上の問題が起こることは通常ありません。

A

胃軸捻転:肝摘出後の胃の軸捻転による食物の胃からの排泄障害で、嘔吐や、食物を十分に摂取できないといった症状が出現する方がいます。

B

胆汁瘻:術後肝切離面から胆汁が漏れることがあります。


肝移植後の患者さん(レシピエント)の合併症
 基本的にはドナーの方に起こりうる合併症は、患者さんにも起こります。ここでは、ドナーの方と異なるものについて記載されています。

a)一般的な合併症:

@

無気肺・肺炎

 

A

出血

 

B

腹膜炎・腹腔内膿瘍(のうよう)

 

C

胃・十二指腸潰瘍

 

D

食道静脈瘤破裂・胃静脈瘤破裂:術前から食道静脈瘤や胃静脈瘤がある方では、手術中に肝臓を摘出して新しい肝臓を植えるまでは、門脈圧が高くなり、破裂することがあります。

E

末梢神経障害

 

F

嗄声(半回神経麻痺)

 

G

ICU症候群・拘禁症候群:術後早期にはICUあるいは個室で治療をおこないますが、術前から存在する様々な不安や不眠などのために、幻覚や幻聴が現れることがあります。

 

H

創感染

 

I

腹壁瘢痕ヘルニア

 

J

肺塞栓症

 

K

腸閉塞

 

b)肝移植手術に伴う合併症:

@

血栓症:吻合した動脈、門脈、肝静脈が術後早期に閉塞することがあります。

A

消化管出血:潰瘍、静脈瘤破裂以外にも、小腸と小腸のあるいは胆管と小腸の吻合部から、あるいは感染症が原因で出血したりすることもあります。

B

胆汁瘻:ドナー同様に術後肝切離面から胆汁が漏れることもありますが、さらに、胆管と胆管あるいは、胆管と小腸の吻合部から胆汁が漏れることもあります。

C

胆管狭窄:胆管と胆管あるいは胆管と小腸の吻合部に狭窄を来すことがあります。肝機能の異常を伴うことが多く、この肝機能の異常は狭窄部が改善するまで続きます。

D

胆管炎:胆道再建に胆管と小腸の吻合を行った場合、胆管から腸への出口の括約筋がなくなるので、腸の内容が胆管への逆流しやすく、便秘や腸蠕動の異常などで胆管炎を起こしやすくなります。

E

無機能グラフト:脳死移植では移植した肝臓が機能しないことが5%程度あると言われています。

F

黄疸の遷延、難治性腹水:移植されたグラフトが本来必要な量よりも少ないことにより、移植後に黄疸が遷延したり、多量の腹水が長期間持続したりすることがあります。

c)移植に伴う合併症:

@

拒絶反応:術後一カ月以内に急性拒絶反応が半数近くの方におこりますが、多くの例では免疫抑制療法の強化により軽快します。

A

感染症:免疫抑制を行うため移植後は感染しやすい状態であり、細菌・ウイルス・真菌などの様々な感染症を合併します。

B

使用する薬剤(特に免疫抑制剤)の副作用:腎障害、肝障害、高血圧、糖尿病、皮膚障害、神経症状等が出現することがあります。腎障害は起こる確率が比較的高く、人工透析を行う場合もあります。

C

悪性腫瘍:免疫抑制の使用に伴い移植後の悪性腫瘍の発生率が一般の人より高いとされています。

京都府立大学 移植・一般外科 合併症 も参考にされてください。

2.ドナーの3.5%が重い合併症に   

 日本肝移植研究会調査結果より(200779日)

国内で行われた生体肝移植で、提供者(ドナー)の30人に1人が手術により重い合併症にかかっていたことが、日本肝移植研究会の調査で6日わかった。国内で実施される肝移植の9割以上を占める生体移植の提供者に大きなリスクがあることが、統計的に初めて明らかになった。

 調査したのは、同研究会のドナー安全対策委員会(委員長=清沢研道・長野赤十字病院長)。2005年12月までに国内で行われた生体肝移植のうち、37施設3005例の症例を得た。
 このうち、〈1〉生死にかかわる可能性がある〈2〉再手術を要した――など五つの問題に該当する症例を「重い合併症」と見なして調べたところ、105人(3・5%)が該当した。内訳は、肝臓を切った部分から
「胆汁が漏れる」(45人)が多く、ほかに「2リットル以上の出血」(24人)、「感染症」(8人)など。46人は再び開腹手術を受けた。
 国内では、2002年に京都大で手術を受けたドナーが肝不全で翌年死亡したほか、2005年には群馬大の手術でドナーが大量出血し、下半身不随になった。対策委は「生体肝移植には一定のリスクがある」と話している。

3.術後管理の実際 

  「生体肝移植の術後管理と合併症」より抜粋
     日本医科大学大学院医学研究科臓器病態制御外科学 自治医科大学小児外科・移植外科

     http://www.nms.ac.jp/jnms/2003/07006522j.pdf

  肝移植後にはさまざまな合併症が起こります。それぞれの合併症の好発時期を考慮した慎重な術後管理が必要となります。

術後合併症とその好発時期

  出血 術後1―2日
  肝動脈および門脈血栓症 術後2週間以内
  拒絶 術後5―90日
  感染 細菌 術後1カ月以内
      真菌(カンジタ等) 術後1カ月以内

      真菌(ニューモシスティス・カリニ,アスペルギルス等)  術後3−5カ月以内
      ウィルス(CMVHSV,アデノウィルス等) 術後3週以降



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