17.3 エピソード3

 肝性脳症〜生体肝移植に至るまでの体験談

 肝性脳症は、腸で作られたアンモニアという有害な物質は、本来肝臓で分解され無害となりますが、肝臓が分解する力がないために、肝臓を通らないルートの血管を通って脳へいってしまいます。手が震え始め、進行すると頭がもうろうとしたり、訳が分からないことを口走ったりし、最後には意識を失ったりということが起こります。 

 私の場合、最初の頃はパソコンのキーボードを打つ時、自分が打った字がその通りに表示しなくなり、よく見ると隣の字を打っていました。その時は、年のせいかなと思いました。
 その後、食事の時に箸がブルブル震え始め、段々激しくなり始めました。

 医師にこのことを話すとそれは“肝性脳症であり、神経症状として「羽ばたき振戦」*1が起きている”と言われました。
 (治療はたんぱく質の制限と薬物療法です。私の場合は、アンモニアの生成や吸収を抑えるために、ラクツロースという人工的な糖分の服用とアミノ酸製剤のアミノレバンの注射や服用が行われました)
 第4章「肝機能推移」のグラフでも分かるように、平成13年(2001年)4月データより、血液中のアンモニア濃度が、異常に高い値を示しています。

 
平成13年5月に母が大腸癌が肝臓等に転移し、亡くなった日や葬儀の日にも病院にアミノレバンの点滴を受けに行っていました。喪主である私がその様な状態だったのと母の希望もあり、家族、親戚だけの簡単な葬式にさせてもらいました。
 こんな状態で半日勤務を続けていましたが、手の震えで満足に字を書くことも出来なくなり、貧血状態から三半規管(さんはんきかん)への血液の流れが悪く、めまいや平衡感覚を失い、何度も倒れ会社の同僚に家まで送ってもらうような事態になり、肝硬変と診断され、ついに休職となりました。
 この頃には鼻血や腹水等の症状も出始め、以前にも増して太ってきました。
 治療ためのアミノレバンの注射も嫌ですが、服用は飲みにくく、注射よりもっと嫌いでした。リンゴ味、パイン味とか他にも色々味を付けて、飲み易くしていましたが、中でも、パイン味がお気に入りでした。でも、嫌いなものは嫌いです。

 休職状態が1年位続いた平成14年11月6日、肝性脳症が悪化し、意識がなくなりました。

  後から、家族から聞いた話では、救急車を呼んだら、乗りたくないと暴れ、タンカからは降りようとしたそうです。そして、病院では、医師から名前、年齢、住所等、何を聞かれても、自分の名前しか言わなかったそうです。アミノレバンと言う特効薬を注射された時も医師が5人ほどでおさえないと注射できなかったそうです。しかし、注射後2時間くらいたった頃から、意識が回復し始めました。しかし、まだ、もうろうとしており医師から、ここは何処と、聞かれ周りを見渡した所、病室だという事は分かり答えましたが、今日は何日ですかとの質問に答えることが出来ませんでした。何年の何月何日か全く思い出しませんでした。

 CTを撮るために身長と体重を聞かれた時、身長は答えられたのですが、“体重って、なんのことか分からないのです。記憶が無くなっているのです。次の日やっと体重の意味は分かりましたが何kgか分かりませんでした。その当時は太っていた(今もですが)ので思い出したくはなかったのではないでしょうか?(冗談ではなく本当の話です。)

 家族にとっては、怖い体験だったそうです。私は何も覚えていないのです。その後、医師は妻に余命6ケ月と宣告したそうです。妻は私を心配して医師には私の方からタイミングを見て話しますので、直接本人に言わないで欲しいとお願いしたそうです。私が妻から聞いたのは退院後でした。
 退院後、2日目の夜、妻と今後の生活の話していた時、私は“後2年位は生きていられると思うので、そんなに慌てなくてもいいんじゃない”と言った後、妻は泣きながら“お父さん、そんなに長くは生きてはおられないのよ。先生から余命6ヶ月と言われたの”と話してくれました。その晩は妻と二人で泣きあかしてしまいました。(長い人生の中で泣いたのは数回しか憶えていませんが、その時が一番辛い涙だったと思います) 
 その後は、家族と相談し、肝臓移植のためのインフォームドコンセントを受けることを決めました。
 (詳細は第7章「インフォームドコンセント・ドナー決定までの流れ」を参考に)

 そして翌年の平成15年1月に再度、肝性脳症で倒れ、同年の3月27日生体肝移植を受けて肝性脳症との戦いが終了いたしました。
私の昏睡度の最高は、下表のVまで行きました。

 今から思えば、長い肝性脳症との戦いだったと思います。


 参考 昏睡度分類 

昏睡度分類(犬山シンポジウム、1981年)

昏睡度

精神症状

参考事項

I

睡眠-覚醒リズムの逆転
多幸気分、ときに抑うつ状態
だらしなく、気にもとめない態度

Retrospective(回顧的)にしか判定できない場合が多い

II

指南力(時・場所)障害、物をとり違える(confusion
異常行動(例:お金をまく、化粧品をゴミ箱に捨てるなど)
ときに傾眠状態(普通の呼びかけで開眼し、会話ができる)
無礼な言動があったりするが、医師の指示に従う態度をみせる

興奮状態がない
尿、便失禁がない
羽ばたき振戦あり

III

しばしば興奮状態または譫妄状態を伴い、反抗的態度をみせる
嗜眠状態(ほとんど眠っている)
外的刺激で開眼しうるが、医師の指示に従わない、または従えない(簡単な命令には応じうる)

羽ばたき振戦あり
(患者の協力が得られる場合)
指南力は高度に障害

IV

昏睡(完全な意識の消失)
痛み刺激に反応する

刺激に対して、払いのける動作、顔をしかめる等がみられる

V

深昏睡
痛み刺激にもまったく反応しない

  

    *1 羽ばたき振戦の見方:両腕を前に伸ばし、手首を背屈させると鳥が羽ばたくように震え(振戦)が見られます 

    末期肝臓病の症状は大きく分けて、@黄疸A腹水B食道静脈瘤C肝性脳症D出血傾向で、私は全ての項目で症状が現れました。
    詳しくは第6.5章の参考「末期肝臓病の症状」を参考にして下さい。


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